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浦和地方裁判所 昭和62年(行ウ)2号 判決 1990年9月10日

埼玉県北葛飾郡松伏村大川戸七七〇

原告

外山敬

右訴訟代理人弁護士

佐々木新一

柳重雄

同県越谷市赤山町五-七-四七

被告

越谷税務署長

吉田満朗

右指定代理人

伊藤正高

玉田真一

中澤勇七

三村明

猿山利晴

神谷宏行

東清

小林政夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年一月三〇日付で原告の昭和五五年分、同五六年分及び同五七年分の所得税についてした各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、金属製バネ等の製造業を営む者であるが、昭和五五年分、同五六年分及び同五七年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税について、それぞれ別表一の各確定申告欄記載のとおりの申告をしたところ、被告は同五九年一月三〇日付で同別表の各更正・決定欄記載のとおり更正する旨の処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各過少申告加算税賦課決定処分」という。)をした。

2  そこで、原告は、本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課決定処分について、昭和五九年三月二八日、被告に対し異議申立をしたが、同年七月一〇日付でいずれも棄却されたので、同年八月六日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所長は、同六一年一〇月一一日付でいずれもこれを棄却する旨の裁決をし、その裁決書は同月三〇日原告に交付された。

3  しかしながら、本件各更正処分のうち、各確定申告に係る所得金額を越える部分は、所得金額を過大に認定したものであるから違法であり、したがって、これを前提とする本件各過少申告加算税賦課決定処分もまた違法である。

よって、原告は被告に対し本件各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認める。同3の主張は争う。

三  被告の主張

本件各更正処分は推計によってしたものであるが、その経緯及び根拠は次のとおりである。

1  本件推計課税の必要性について

(一) 原告は、青色申告書以外の申告書によって確定申告をした、いわゆる白色申告者であるが、本件係争各年分の確定申告書には、いずれの年分についても所得金額のみの記載があって、収入金額と必要経費の記載がないため、所得金額の計算内容が不明であった。また、原告の事業規模等に照らし所得金額が過少ではないかとの疑いもあり、原告については昭和四八年以降長期間にわたり所得税について調査が行われていなかったことから、被告は本件係争各年分の所得税について調査の必要があると認めた。

(二) そこで、右調査のため、被告所部係官は昭和五八年七月二六日原告宅に赴いた。しかし、原告は、調査理由を具体的に開示するよう求めるとともに、事前の連絡がなかったことを理由に、直ちには調査には協力できないと申し立てた。

そのため、係官は、同年八月二二日に改めて調査に赴くことについて原告の了解を取りつけたうえ、原告宅を辞去した。

(三) 被告所部係官は同年八月二二日、再び原告宅に赴いたが、この日、調査の席上には原告のほかに、立会人と称する越谷民主商工会の会員一五人が詰めかけており、テープレコーダーも置かれていた。そこで、係官は、右会員らの立退きとテープレコーダーの取除きを求めたが、原告は、右会員らが立会人となることの正当性を主張してこれに応ぜず、調査に全く協力しようとしなかったので、係官は、やむなく原告宅を辞去した。

(四) その後も、被告所部係官は同年八月二九日、原告に架電し、調査に協力するよう重ねて要請した。そして、事前の連絡により約束を取りつけたうえ、同年一〇月一八日、再度原告宅に赴き、調査に対する協力を要請した。しかし、このときも調査の席上には、越谷民主商工会の会員九人が詰めかけ、卓の上にテープレコーダーが作動の状態で置かれており、原告の態度は前回と変わりなく、踏査に協力しようとはしなかった。そこで、係官は、このままの状態では原告から帳簿書類の呈示等の調査協力はとうてい受けられないと判断し、原告宅を辞去した。

(五) 以上のような状況のため、被告は本件係争各年分の所得金額を実額で把握することは不可能であると判断し、原告の取引先に対する反面調査によって判明した収入金額を基礎として、後記のとおり、原告の本件係争各年分の所得金額を推計によって算出し、本件各更正処分をしたものである。

2  本件推計課税の合理性について

原告の本件係争各年分の事業所得の金額及びその算定根拠は、それぞれ次のとおりである。

(一) 昭和五五年分について

(1) この年分の事業所得の金額は一〇七一万五六四八円であり、これは収入金額四三四〇万〇七六五円に同業者の平均所得率二四・六九パーセントを乗じて算定したものである。

(2) 右収入金額は原告の取引先に対する反面調査によって把握した売上金額であり、その内訳は別表二記載のとおりである。

(3) 右同業者の平均所得率は以下の方法によって算出されたものである。

<1> まず、原告の納税地を所轄する越谷税務署とそれに隣接した税務署の管内に住所(納税地)を有し、原告と同様「金属製バネ製造業」を営む個人事業者のうち、次の(ア)ないし(オ)に該当する者を抽出した。

(ア) 昭和五五年分について、青色申告の承認を受け青色決算書を提出している者

(イ) 昭和五五年分の収入金額が原告の当該年分のそれの二分の一以上、二倍以下の範囲である者

(ウ) 昭和五五年分において一年を通じて金属製バネの製造業を継続して営んでいた者

(エ) 災害等により、経営状態が異常であると認められる者以外の者

(オ) 税務署長から更正又は決定処分を受けている者にあっては、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間の経過している者並びに当該年分に対する不服申立て及び訴訟中でない者

<2> 次に、右により抽出した比準同業者の所得率を平均して、同業者の平均所得率を求めた。その計算内容は別表三記載のとおりである。

(二) 昭和五六年分について

(1) この年分の事業所得の金額は一一二八万五四五四円であり、これは収入金額四七一六万〇二七六円に同業者の平均所得率二三・九三パーセントを乗じて算定したものである。

(2) 右収入金額は昭和五六年分について前記昭和五五年分のそれと同様の方法で把握したものであり、その内訳は別表二記載のとおりである。

(3) 右同業者の平均所得率は昭和五六年分について前記昭和五五年分のそれと同様の方法で算定されたものであって、その計算内容は別表三記載のとおりである。

(三) 昭和五七年分について

(1) この年分の事業所得の金額は一三七七万六二〇六円であり、これは収入金額四九九三万一八八四円に同業者の平均所得率二七・五九パーセントを乗じて算定したものである。

(2) 右収入金額は昭和五七年分について前記昭和五五年分のそれと同様の方法で把握したものであり、その内訳は別表二記載のとおりである。

(3) 右同業者の平均所得率は昭和五七年分について前記昭和五五年分のそれと同様の方法で算定されたものであって、その計算内容は別表三記載のとおりである。

以上の本件係争各年分の事業所得の金額は本件各更正処分に係る事業所得の金額を上回っており、したがって、本件各更正処分は適法である。

そして、本件各過少申告加算税賦課決定処分は本件各更正処分によって納付すべきこととなる本件係争各年分の所得税額に国税通則法六五条一項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの、以下同じ。)の規定に基づきそれぞれ一〇〇分の五の割合を乗じて計算したものであるから、これもまた適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1のうち、原告がいわゆる白色申告者であること、被告所部係官が調査のため原告宅に臨場したことは認めるが、調査に対し原告が非協力的であったとの点は争う。

2  同2のうち、

(一)の(1)は争う。同(2)の別表二記載の収入金額のうち、合名会社福井靴木型製作所からの分はその金額については否認、その余は認める。同(3)は争う。

(二)の(1)は争う。同(2)の同別表記載の収入金額のうち、合名会社福井靴木型製作所、エスアンドエス株式会社土山工場及び株式会社鈴木靴型製作所からの分はその金額については否認、その余は認める。同(3)は争う。

(三)の(1)は争う。同(2)の同別表記載の収入金額のうち、合名会社福井靴木型製作所、エスアンドエス株式会社矢板工場及び株式会社型春製作所からの分はその金額については否認、その余は認める。同(3)は争う。

(原告の反論)

1  推計課税の必要性について

申告納税方式においては、納付すべき税額は納税者の申告によって確定するのが原則である(国税通則法一六条)。したがって、納税申告があった所得税について税務職員が質問検査権を行使するのは申告の内容に誤りがあることを推測させる相当な理由があるときに限り許されるのであって、漠然と申告内容が正しいかどうかを確認するというようなことのためにその行使が許されるわけではない。そうだとすれば、その行使を受ける納税義務者の側からは、税務職員に対し質問検査権の行使を受ける理由の開示を要求できてしかるべきであり、その要求があれば、当該職員はこれに応ずる義務があるとすることが適正手続の要請するところである。そして、この場合、開示する理由の内容は、相手方が調査に協力すべき責任があることを十分理解できる程度に具体的でなければならないのは当然である。

ところが、本件において、被告所部係官が原告の求めに応じて開示した理由は(1)原告の確定申告書には、収入金額と必要経費の記載がなく所得金額の計算内容が不明である、(2)原告経営の事業規模等に照らし所得金額が過少と思われる、(3)原告については長期間調査が行われていない、というものである。

しかしながら、右(1)の点については、原告はいわゆる白色申告の方法を選択しているのであるから、確定申告書に収入金額と必要経費を記載することは法律上義務付けられておらず、原告のような申告の仕方をする納税者の方が圧倒的多数であることは公知の事実である。(2)の点についても、被告の主張するところは、結局のところ外観調査によって得られた資料に基づく被告の全くの主観的判断に過ぎず、質問検査権行使の理由として具体性、合理性を有するものではない。(3)の点は申告に誤りがあることを推測させる相当な理由とは到底いえない。

原告には被告所部係官の税務調査を拒否する意図はなく、相当な理由の開示があれば、これに協力するつもりであった。しかしながら、係官からは右の程度の理由の開示しかなかったので、重ねて、もっと具体性のある理由の開示を求めていたのである。また、越谷民主商工会の会員を調査の立会人とすること及び調査の状況を保存し、後の参考とするためテープレコーダーを使用することは法律上禁止されているところではない。係官は、納税者の秘密の保護を右第三者の立合い等を認めない理由として挙げたが、本件においては、納税者である原告自身秘密の保護を求めていないのであるから、これは第三者の立合い等を認めない理由とはならないことは明らかである。以上の次第であるにもかかわらず、係官は、一方的に原告の協力は得られないとして、原告に対する調査を打ち切ってしまったのであり、したがって、本件推計課税は原告に対する十分な調査を尽くさなかった点でその必要性に欠けるものである。

2  推計課税の合理性について

被告主張の推計方法は、次の点で合理性を欠くものである。

(一) 原告は、当初旋バネ加工を主力としていたが、本件係争各年当時においては、原告が営む事業の製品中、バネ製品の占める割合はおおよそ五〇パーセントであり、残りの五〇パーセントはバネ製品と何ら関係のないパイプ加工品、線材加工品である。したがって、原告の事業の業種としては、金属挽き物か、プレス加工業に分類されるべきものである。ところが、同業者の平均所得率算定のため被告が抽出した事業者は個人でもっぱら金属製バネの製造業を営んでいる者であり、原告と同業者といえない。とくに、パイプ、線材等のプレス加工はバネ製造に比して技術的に難しく、その事業収入に対する所得率はバネ製造のそれよりも低いものである。

(二) 被告が抽出した同業者数は、昭和五五年分については四人、同五六年分については二人、同五七年分については三人に過ぎず、この人数はあまりにも過少であり、推計の裏付けとして十分とはいえない。

第三証拠

本件記録中の「書証目録」及び「証人等目録」に記載のとおりである。

理由

一  請求原因1及び2の事実(本件各更正処分の経過等)については当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正処分の適否について判断するのに、本件各更正処分が推計によってされたものであることは被告の自認するところである。

そこで、まず、その必要性が存したかどうかについて検討するのに、いずれも成立に争いのない乙第七ないし第一〇号証、証人加勢芳彦の証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  所得税の確定申告の用紙には所得金額の項には収入金額と必要経費とを記入し、前者から後者を差し引いたものを所得金額とするようそれぞれの記入欄が設けられているところ、原告が被告あてに提出した本件係争各年分の確定申告書には所得金額のみが記載されているだけで、収入金額と必要経費の記載がなかった。そのため、税務当局としては、これでは所得金額の算出過程が明らかでなく、所得金額そのものも原告が経営する事業の規模等からすると過少ではないかとの疑いを生じた。そのうえ、原告については昭和四八年以降税務調査を実施していないことでもあったので、当局は、本件係争各年分の所得税について原告に対する税務調査を実施することとし、越谷税務署所属の国税調査官加勢芳彦(以下「加勢調査官」という。)がこれを担当することになった。

2  加勢調査官は昭和五八年七月二六日、ほか一名の係官とともに、事前に通知することなくして、原告宅を訪れ、所得税の調査に来たことを告げたところ、原告は「急に来られても忙しいから困る。」、「調査理由についてももっと具体的に特定してもらえないと調査に応じられない。」などと言って、直ちには調査に協力しそうにはなかった。そこで、加勢調査官は、同年八月二二日に再度来訪することについて原告の同意を得たうえ、次回には調査に協力してくれるよう言いおいて原告宅を辞去した。

3  そして、加勢調査官は右指定の日、ほか一名の係官を同道して原告宅を訪れたが、このとき、原告宅には原告のほかに越谷民主商工会の事務局員ら一五人が立会人として詰めかけており、原告は、テープレコーダーを作動させながら、「前回は調査理由を良く聞かなかった。」、「具体的な調査理由を開示しなければ調査に応じない。」などと申し立てた。

これに対し、加勢調査官は、立会人の退席とテープレコーダーの作動停止を求めたが、原告は「立会人がいないと署は何でもやる。」、「テープは止める必要はない。」などと言って、これに応ぜず、調査に協力する姿勢を全く示さなかった。そこで、加勢調査官はこのままでは調査を行うことは不可能であると判断し、原告宅を辞去した。

4  加勢調査官は同月二九日、原告の協力を得るために、原告に対し電話で、調査をする理由として、確定申告書に収入金額と必要経費の記載がなく、収支明細書の添付もないので、所得金額の計算根拠が不明であること、事業場の外観その他から想定される事業規模から判断して収支内容を検討する必要があること、原告については昭和四八年以降税務調査をしていないことを挙げて調査に協力するよう要請したが、原告はこれに応じようとはしなかった。

5  そのうち、加勢調査官は同年九月七日、原告から、調査に第三者を立ち会わせることは正当であること、先に説明を受けた調査理由は正当なものとはいえない旨の意見書を受け取ったので、同月二六日、再び原告に対し電話で、税務調査には申告額が正しいかどうかを確認するというだけのものもあり得るのであって、過少申告の疑いが個別具体的に存在する場合に限られるものではないこと、原告の申告書には収入金額と必要経費の記載がなく申告内容が正しいかどうかについて検討のしようがないので調査して確認しようというものであることなど、前回と同旨の調査理由を告げてこれに回答した。

6  そして、加勢調査官は、事前に通知したうえ、同年一〇月一八日、他一名の係官とともに、再度原告宅を訪問したが、このときも、原告宅には越谷民主商工会の事務局員ら九人が立会人として詰めかけており、テープレコーダーも用意されていた。そこで、加勢調査官は原告に対し右立会人の退席とテープレコーダーの作動停止を求めたが、原告はこれに応じなかった。また、調査に必要な帳簿書類の提示を求めても、「具体的理由がなにも明らかにされていないのだから、だれかの反面調査のために来たのかもしれない。だから帳面を見せると取引先を裏切ることになる。」などと言ってこれを拒絶し、「今までの説明では具体的な調査理由になっていない。」として調査理由の開示を求め、立会人からも同様の発言が相次いだ。そのため、加勢調査官は、これ以上手段を尽くしても協力を得られる見込みはないものと判断し原告に対する調査を打ち切った。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告の本件係争各年分の所得金額については、原告から、これを実額で算定するに必要な帳簿書類若しくは原始記録の提示がなく、被告所部係官による調査についても原告の協力が得られなかったのであるから、税務当局としては、推計によるほかに、原告の申告に係る所得金額に誤りがないかどうかを確認する方法はなく、したがって、推計課税の必要性は存在したということができる。

この点について原告は、本件推計課税は原告に対する十分な調査を尽くさなかった点でその必要性に欠けると主張するが、右認定の経過に照らすと、税務当局が原告について税務調査を開始したことには相当の理由があり、原告に対しても求めに応じてその理由が十分に開示されたことは右認定のとおりである。また、加勢調査官が調査の席上、越谷民主商工会の事務局員等の退席やテープレコーダーの作動停止を求めたのも、調査を平穏のうちに公正に行おうとする見地からは相当の措置であって、これらの点についての原告の主張はいずれも原告に独自のものというほかはなく、採用の限りではない。

三  次に、所得金額の算定方法の当否について検討する。

1  収入金額の認定について

本件各更正処分において認定された原告の本件係争各年分の収入金額はいずれも原告の取引先についての反面調査によって把握されたものであることは被告の自認するところである。

(昭和五五年分について)

(一) 昭和五五年分の収入金額が合名会社福井靴木型製作所に関する部分を除いて、別表二記載のとおりであることは原告の認めて争わないところである。

(二) 成立に争いのない乙第一三号証の一によれば、合名会社福井靴木型製作所からの収入金額は一〇〇三万一一五〇円であることが認められ、これに反する証拠はない。

(三) したがって、原告の昭和五五年分の収入金額は被告主張の四三四〇万〇七六五円を下ることはないと認められる。

(昭和五六年分について)

(一) 合名会社福井靴木型製作所、エスアンドエス株式会社土山工場及び株式会社鈴木靴型製作所に関する部分を除いて、別表二記載のとおりであることは原告の認めて争わないところである。

(二) いずれも成立に争いのない乙第一三号証の二、第一四号証、第一五号証の一、二によれば、原告の昭和五六年中の合名会社福井靴木型製作所、エスアンドエス株式会社土山工場及び株式会社鈴木靴木型製作所からの収入金額は、合名会社福井靴木型製作所につき一〇三三万〇〇八〇円、エスアンドエス株式会社土山工場につき四七七万九三七五円、株式会社鈴木靴木型製作所につき二三三万円であることが認められ、これに反する証拠はない。

(三) したがって、原告の昭和五六年分の収入金額は被告主張の四七一六万〇二七六円を下ることはないと認められる。

(昭和五七年分について)

(一) 合名会社福井靴木型製作所、エスアンドエス株式会社矢板工場及び株式会社型春製作所に関する部分を除いて、別表二記載のとおりであることは原告の認めて争わないところである。

(二) いずれも成立に争いのない乙第一三号証の三、第一五号証の一、三、第一六号証によれば、昭和五七年中の合名会社福井靴木型製作所、エスアンドエス株式会社矢板工場及び株式会社型春製作所からの収入金額は、合名会社福井靴木型製作所につき一一八六万一〇〇〇円、エスアンドエス株式会社矢板工場につき一五〇万二五〇〇円、株式会社型春製作所につき一九三万五〇〇〇円であることが認められ、これに反する証拠はない。

(三) したがって、原告の昭和五七年分の収入金額は被告主張の四九九三万一八八四円を下ることはないと認められる。

2  所得金額の算定について

成立に争いのない乙第一一号証、証人根津正人の証言といずれもこれにより成立の認められる乙第二ないし第六号証の各一、二によれば、被告は本件係争各年ごとに原告の同業者として越谷税務署とこれに隣接する西新井、葛飾各税務署管内に住所(納税地)を有し、金属バネ製造業を営む個人事業者のうち、青色申告書を提出する者で、その年分の収入金額が原告のそれの二分の一以上二倍以下の範囲内である者すべてを正確に抽出したこと、右同業者が確定申告した収入金額、算出所得金額を調査し、各年の平均所得率を算出したところ、その結果は別表三記載のとおりであることが認められる。

右事実によれば、被告主張の同業者の平均所得率算出に当たり抽出された同業者は、原告と同様越谷税務署及びその周辺の税務署管内に住所を有する同業者であって、事業の種類、規模が類似しているものであるから、同業者の抽出基準に合理性があり、抽出作業も正確であって、恣意が介在した余地は認められない。抽出数は二ないし四人であり、決して多いとはいえないが、一応の普遍性も担保していると認められ、したがって、右同業者の平均所得率を基礎として原告の所得金額を推計することには合理性があるということができる。

原告は、被告の右推計方法に合理性がない根拠として、(1)原告の事業においては、バネ製品のほかに、パイプ加工品、線材加工品も手がけており、バネ製品の原告の製品全体における構成比は、昭和五五年が売上金額のうち約四七パーセント、同五六年が約四九パーセント、同五七年が約四五パーセントに過ぎないから、原告の業種は、金属挽き物か、プレス加工業と分類されるべきものであり、金属バネ製造業から同業者を抽出すべきでないこと、(2)抽出された同業者の数が少ないことを挙げ、右(1)の主張に沿う証拠として甲第二ないし第四号証(商品販売一覧表)を提出する。

しかしながら、右商品販売一覧表は、本件訴訟提起後に本件訴訟のために作成されたものであり、そのもととなったとされる売上伝票等は本件訴訟に一切提出されていないのであり、直ちにこれを採用することは困難である。

のみならず、仮に、製品構成比が右商品一覧表記載のとおりであるとしても、右商品一覧表の製品を分類すると、<1>「クツガタヨウバネ」群、<2>「スプリング」群、<3>「バネヨウピン」群、<4>「パイプ」群、<5>その他、となる。そして、右<2>は正にバネの一種と考えられるし、前掲乙第一二号証の二によれば、靴型用バネには、ピンがその構成部分となっていることが認められ、原告本人尋問の結果によれば、パイプ加工品も主力製品に関連する部品として製造していることが認められる。また、一般的に、ある事業を行う場合には、その業種特有の製品の製造やサービスの提供のみならず、これに関連する部品等を付随的に製造したりすることが通常行われているのであるから、抽出された業者と原告との業種・業態の類似性を判断するうえにおいては、右分類のうち、<1>のみならず、<2>ないし<4>も加えて判断するのが相当である。右各商品一覧表によれば、昭和五五年分については右<1>ないし<4>の全体に占める割合は約九三・五〇パーセント、同五六年分については同じく約九四・四〇パーセント、同五七年分については同じく約九〇・九二パーセントとなり、このような割合から考えるならば、原告の業種は金属バネ製造業と認定するのが相当である。

また、原告主張の製品構成比において、約半分の割合を占めるパイプ加工品、線材加工品の方がバネ製品に比して採算性が著しく劣るとする原告本人の供述は、それ自体具体性に欠けるうえ、これを裏付ける証拠もないので、たやすく採用できない。

次に、抽出された同業者の数についてみるのに、本件各更正処分に際し、抽出された比準同業者はいずれも金属バネ製造業であり、前記のとおり、金属製の靴の木型用バネを主力製品とする原告の事業と事業の内容、規模等にかなりの類似性を有する者であることに鑑みると、比準同業者数が、昭和五五年分については四人、同五六年分については二人、同五七年分については三人にすぎないとしても、直ちに推計方法の合理性を否定するものとはいえない。

したがって、原告の本件係争各年分の収入金額に、平均所得率二四・六九パーセント(昭和五五年分)、二三・九三パーセント(昭和五六年分)、二七・五九パーセント(昭和五七年分)をそれぞれ乗ずると、原告の右各年分の算出所得金額は、昭和五五年分につき一〇七一万五六四八円、昭和五六年分につき一一二八万五四五四円、昭和五七年分につき一三七七万六二〇六円となる。

これからすれば、本件各更正処分においては、原告の本件係争各年分の所得金額は過大に認定されてはいないから、本件各更正処分は適法なものということができる。

四  本件各過少申告加算税は本件各更正処分によって算定された所得金額及びこれに対する法定の税額をもとにして賦課されたものであるところ、本件各更正処分には所得金額を過大に認定した違法はないとする以上、本件各過少申告加算税賦課決定処分にもまた違法はないというべきである。

五  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 小林敬子 裁判官 西郷雅彦)

別表一

1 昭和五五年分

<省略>

2 昭和五六年分

<省略>

3 昭和五七年分

<省略>

別表二

収入金額の内訳

<省略>

<省略>

別表三

同業者率

<省略>

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